不動産賃貸の営業をやっている頃、七十過ぎで新聞配達をして暮らしている老夫婦が安い借家を探してやってきたことを思い出したので書く。

高齢ドライバーが事故を起こしているけれど車が無いと生活できない高齢者もいるということ - ネットの海の渚にて

ここにいる人って老人は金持ちって思ってるんだろうなぁ。実際貧乏なのが多いぞ。生活保護も50代以上がほとんどだし。引越し費用やインフラコストを年金じゃとても賄えないし情報格差もある。そんな簡単じゃない。

2016/11/20 17:58

 昔、不動産賃貸の営業をやっている頃、七十過ぎで新聞配達をして暮らしている老夫婦が安い借家を探してやってきたことを思い出したので書く。その夫婦は穏やかそうな、自然と親切にしてあげたいと思うような夫婦でだった。もう十年以上前になるか。

 古い街並みの中に立つ、築年数がわからないくらい古いボロボロの長屋の一室を借りることになった。七十歳を過ぎたような方の場合、連帯保証人のことだとか、長年住むとなると死が付きまとってくることなどがあり、普通は大家は嫌がるが、大家の方も古い物件で長く空いていたこともあり、老夫婦に借りてもらうことを承諾した。詳細を覚えていないが確か保証会社を契約してもらったと思う。

 今にして思えば、あの夫婦はどうして安い部屋を七十過ぎてから探していたのだろう。不動産会社というのは、トラブルを抱えた人というのも出入りする場所だ。家賃を滞納したり、トラブルを起こしそうな人の場合、注意しなくてはいけないので、多少突っ込んだ質問もするが、あの夫婦はどうだっただろうか。子供はいただろうか、それまではどこに住んでいたんだったか。若い頃はどんな仕事をしていたのだろうか。七十過ぎて夫婦二人で住まいを替えることになってしまうというのは、そんなに良いことではないように思う。心細い思いもしたのではないだろうか。

 契約・入居が済んでから、書類を渡す必要があったため、一度だけ借りてもらった長屋に上がらせてもらったことがあった。古くてボロボロだった長屋も、縁側には渋柿が干してあり、生活感のある雰囲気になっていた。干し柿とお茶でもてなしてもらった。干し柿は苦手だったが食べて、少し世間話をして引き上げてきた。

 しばらくして私は転職した。老夫婦はその後どうしていただろうか。もう亡くなっていてもおかしくない。数年前久しぶりにその街に行ってみると、その場所は今は大型書店になっていた。古い長屋は跡形もない。老夫婦の働いていた新聞屋はまだ営業をしていたが、尋ねるような間柄でもない。あれから働けたとしても、2・3年程度ではないかと思うが、ちゃんと暮らせていただろうか。誰か、世話してくれる人はいたのだろうか。住まいが変わってしまうと、身近に知人などもいなくなってしまう。お葬式はちゃんとできただろうか。残された方は、寂しい思いをしたのではないか。当時もいっぱいいっぱいだった私があの二人に何かできたとは思えないが、なんとなく後悔が残る思い出である。